手のひらに収まるほど小さな精油ボトル。植物からつくられた自然由来の製品だから、箱に入れれば一般の商品と同じように送れると思われるかもしれません。しかし実際には、精油の航空輸送にはさまざまなルールがあり、想像以上に複雑です。その理由のひとつが、精油の種類によっては輸送上の「危険物(Dangerous Goods)」に分類されることがあるためです。
小さな一本の精油を届けるまでには、貨物の分類、梱包方法、数量制限、包装試験、マーキングやラベリング、必要書類の作成、さらに運送会社ごとの要件など、さまざまなプロセスがあります。
精油をはじめとする危険物の航空輸送にはどのようなルールがあるのか、そしてなぜこれほど細かな基準が設けられているのかをみていきましょう
なぜ精油が「危険物」に分類されることがあるのでしょうか?
一部の精油は、その物理的・化学的性質により、輸送中に危険を及ぼす可能性があることから、危険物(Dangerous Goods)に分類されます。特に航空輸送や海上輸送では、安全上の観点から厳格な取り扱いが求められています。
精油の物理的な性質として、輸送時に重要となるもののひとつが引火点(flash point)です。引火点とは、液体から発生する蒸気が、火源を近づけたときに引火する可能性のある最低温度を指します。
これは、その温度になると精油が自然に発火するという意味ではありません。しかし輸送、特に航空輸送では、可燃性の蒸気が発生する可能性は安全上重要な要素となります。
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また、一部の精油は水生生物に対して有害な性質を持つことがあります。万が一輸送中に漏洩した場合には、周囲の環境へ影響を与える可能性があるため、こうした環境有害性も輸送上の分類を考える際の重要な要素になります。
このほかにも、精油によって考慮すべき危険性は異なります。そのため、一つの性質だけを見るのではなく、製品全体の特性を確認したうえで、適切な輸送方法を判断する必要があります。
精油などの危険物輸送のルールは、誰が定めているのでしょうか?
精油を含む危険物の分類には、国際的に共通するルールが設けられています。その基本となるのが、国連の「危険物輸送に関する国連勧告(UN Model Regulations on the Transport of Dangerous Goods)」です。
これをもとに、輸送手段ごとに異なる規則が定められており、航空輸送ではIATA(国際航空運送協会)の危険物規則書(IATA DGR)、海上輸送ではIMDGコード(国際海上危険物規程)、また道路輸送では地域によってADR(危険物の国際道路運送に関する欧州協定)などが適用されます。
IATA危険物規則書では、危険物はその危険性に応じて**9つのクラス(Class)**に分類されます。危険物に該当する物質や物品は、少なくともいずれかのクラスに分類され、その分類に基づいて、包装、表示・ラベル、取り扱いなどの要件が定められています。
- クラス1:火薬類(Explosives)
- クラス2:ガス類(Gases)
- クラス3:引火性液体(Flammable Liquids)
- クラス4:可燃性固体、自然発火性物質、水と接触して引火性ガスを発生する物質
- クラス5:酸化性物質および有機過酸化物
- クラス6:毒物および感染性物質
- クラス7:放射性物質
- クラス8:腐食性物質
- クラス9:その他の危険性物質および物品(環境有害物質を含む)
つまり、精油を安全に梱包して運送会社に渡せば、それだけで海外へ発送できるというわけではありません。

IATA dangerous goods labels
精油はどのように危険物として分類される?UN1197とUN3082
すべての精油が同じ方法で輸送できるわけではありません。梱包方法を決める前に、まずそれぞれの精油がどのような危険性を持つのかを確認し、適切なUN番号を特定する必要があります。
引火性を判断するうえで重要になるのが、引火点と初留点です。これらの情報は通常、SDSのセクション9で確認することができます。
国連の危険物輸送分類では、クラス3(引火性液体)は、危険度に応じて3つのパッキンググループ(容器等級)に分類されます。主な分類基準は、引火点(密閉式)と初留点です。
- Packing Group I(危険度:高):初留点35℃以下
- Packing Group II(危険度:中):引火点23℃未満、初留点35℃超
- Packing Group III(危険度:低):引火点23℃以上60℃以下、初留点35℃超
簡単に言えば、引火点が低いほど、より低い温度で引火性のある蒸気を発生させやすいということです。初留点は、特に揮発性の高い液体の危険度をさらに判断するための指標となります。
シトラス系を含む一部の精油は引火点が低く、クラス3 – Flammable Liquid(引火性液体)に分類される場合があります。
製品の性質や分類によっては、UN1197 – EXTRACTS, FLAVOURING, LIQUIDが適用されることがあります。また、適用されるパッキンググループ(容器等級)も、その製品の引火点や初留点によって異なります。
一方、引火点が60℃を超える精油は通常、引火性だけを理由としてクラス3に分類されるものではありません。ただし、引火性液体に該当しないからといって、危険物ではないという意味ではありません。
精油に含まれることの多いリモネン、α-ピネン、β-ピネンなどの天然成分には、水生環境に対する有害性を持つものがあります。製品全体を輸送上の基準に沿って評価した結果、精油によってはUN3082 – ENVIRONMENTALLY HAZARDOUS SUBSTANCE, LIQUID, N.O.S.(環境有害物質・液体・他に品名が明示されていないもの)、クラス9 – Packing Group IIIに分類される場合があります。
そのため実際の輸送では、単に「この精油の引火点は何度か」だけを見るのではなく、SDSや輸送分類に関する情報を総合的に確認し、その製品が危険物に該当するのか、該当する場合はどの分類になるのかを判断する必要があります。
精油を航空輸送する前に確認すること
精油を航空輸送する際には、まず次のようなことを明確にしていきます。
クラス3(引火性液体)に該当するのか。該当する場合、容器等級はどれか。そのほかに輸送上考慮すべき危険性はあるか。適切なUN番号は何か。そして、どのような方法で梱包し、輸送の準備を行う必要があるのか。
こうした輸送上の条件を整理して初めて、輸送可能な数量、使用する容器や外装、マーキングやラベリング、申告や書類作成など、具体的な準備方法を判断することができます。
危険物の分類、容器等級、数量、輸送方法などによって、内装容器・外装容器の要件、1梱包あたりに入れられる数量、梱包方法、マーキングやラベリング、必要書類なども変わります。
さらに、航空会社や運送会社によって、危険物に関する独自の制限や受託条件を設けている場合もあるため、実際の発送にあたっては、利用する航空会社や運送会社の規定についても事前に確認する必要があります。
危険物を運ぶための「容器・包装」にもルールがあります
危険物の分類、容器等級、輸送方法などによって、求められる容器・包装の要件も異なります。
危険物の航空輸送に使用する容器・包装には、適用される規則や包装基準(Packing Instruction)に応じて、UN規格に適合した容器・包装が求められる場合と、UN規格マークのない包装の使用が認められる場合があります。
一つは、UN規格に適合した容器・包装(一般にUN-certified packagingと呼ばれるもの)を使用するケースです。これは危険物輸送のための基準に沿って設計・試験された容器・包装で、通常はUN規格マークが表示されています。この表示から、包装の種類や試験された性能レベルなどの情報を確認することができます。
一方、適用される包装基準や輸送方法によっては、UN規格マークのない包装の使用が認められる場合もあります。その場合でも、使用する包装が所定の条件を満たしている必要があり、適用される規則によっては、落下試験や積み重ね試験などの性能試験が求められます。試験を実施した場合には、その結果を記録し、必要な資料として保管しておくことも重要です。
また、実際にどこまで資料の提出を求められるかは、運送会社によっても異なります。出荷のたびに試験記録の提出を求めない会社もあれば、危険物の受託にあたり、包装試験の記録や梱包手順書などの提出を求める会社もあります。
危険物を扱う「人」にもルールがあります
危険物の航空輸送では、包装だけでなく、その貨物を準備する人にも、担当する業務や責任に応じた適切な教育と能力評価が求められます。実際には、運送会社によって、危険物を受託する前に、荷送人側の担当者が必要な危険物取り扱いについての教育・トレーニングを受けていることを示す証明書などの提出を求められる場合もあります。
つまり精油メーカーにとって、危険物輸送を理解するということは、単に「正しい箱を選ぶ」ことだけではありません。製品を正しく分類し、適切に梱包し、マーキングやラベリングを行い、必要な書類を準備すること。そして、荷送人としての責任を理解したうえで貨物を送り出すことまで含まれます。
お客様の目に触れるのは、最終的には一本の精油とそのパッケージだけかもしれません。しかし、その一本がつくられた場所からお客様の手元へ届くまでには、普段はなかなか目にすることのない、さまざまな確認や準備があります。
一本の精油の、その裏側にあるもの
aremeでは、精油を蒸留し、品質を確認し、ボトルに詰めたところで、メーカーとしての仕事が終わるとは考えていません。自分たちの製品を世界のさまざまな場所へ届けるためには、その原料や品質について理解するだけでなく、どのように保管し、梱包し、安全に運ぶべきなのかを知ることも必要です。
一本の精油は、とても小さくシンプルなものに見えます。けれど、その一本が国際線の飛行機に載るまでには、SDSを確認し、輸送上の分類を判断し、IATAの規則を理解したうえで、適切な包装を選び、必要な試験を行い、マーキングやラベリング、書類や記録を整え、さらに運送会社ごとの受託条件を確認するという、いくつもの工程があります。そこには、時間も、知識も、手間も、そしてコストもかかります。
精油を航空便で送るということは実は決して簡単なことではありません。けれど、このプロセスを経験するなかで、私たちは「製品を理解する」ということの意味を、以前より少し広く捉えるようになりました。
精油を理解することは、その植物がどこで育ち、どのように抽出され、どのような成分や香りを持っているのかを知ることだけではありません。その精油がどのような性質を持ち、輸送においてどのようなリスクがあるのかを理解し、つくり手として、製造した場所から使う人の手元に届くまで責任を持つこと。
製品をつくることから、安全に届けるところまで。そのすべてを含めて、私たちは「精油をつくる」という仕事だと考えています。